紛争の内容(ご相談前の状況)
依頼者(夫)は、ご自身で事業を営んでおり、収入や資産が会社員の方とは異なり、複雑な状況でした。妻から離婚調停を申し立てられ、離婚自体には応じるものの、以下の大きな懸念をお持ちでした。
- 事業収入の評価
事業収入は景気や取引状況によって変動が大きく、算定方法によっては法外な養育費を請求されかねない。 - 資産の評価
自宅不動産の価値や、事業用の借入(妻が連帯保証人になっているもの)など、資産と負債が複雑に絡み合っており、財産分与の話し合いが泥沼化する恐れがある。
「離婚協議が長引き、事業の経営にまで影響を及ぼすこと」「妻側に事業の内容を深掘りされ、全てを明らかにされてしまうこと」を何よりも避けたいと、当事務所にご依頼されました。
交渉・調停・訴訟等の経過(当事務所の対応)
ご依頼を受けた弁護士は、依頼者様の「事業への影響を最小限に抑え、早期に調停を成立させる」という最優先事項に基づき、交渉戦略を立てました。
相手方の不安(離婚後の生活)を解消する「有利な条件」をこちらから提示する代わりに、相手方が「事業内容や資産に深入りしない」ことを求める、いわゆる「攻めの交渉」を展開しました。
- 収入(養育費)について
事業収入の詳細な開示を求められる前に、お子様の教育費についても、負担することを約束しました 。 その代わりとして、「再婚などがあっても、将来、お互いに養育費の増額・減額請求は一切しない」という条項を残しました。 - 資産(不動産)について
不動産の詳細な評価(査定)などを挟まず、「自宅不動産を(妻に)財産分与する」 代わりに、「(妻は)その不動産購入時の住宅ローン残債の全額を、夫に支払う」 という、極めてシンプルな「不動産と負債の交換」を提案。これにより、複雑な財産評価の手続きを一切省略しました。
本事例の結末(結果)
弁護士による戦略的な提案が功を奏し、相手方も条件に納得。ご依頼から短期間で調停離婚が成立しました。
依頼者様は、ご自身の事業内容や資産詳細を裁判所や相手方に開示(深掘り)されることなく、また、将来の収入増減に怯える必要のない「養育費の増減請求権の放棄」 という有利な条件を勝ち取ることができました。高額な養育費等の負担と引き換えに、事業経営者として最も守りたかった「事業の安定」と「早期の区切り」という、最大の利益を確保することに成功しました。
本事例に学ぶこと(弁護士からのアドバイス)
個人事業主や経営者の方の離婚は、「事業」と「個人の財産」が不可分であることが多く、財産分与や養育費の算定が非常に複雑化し、長期化しやすいという特徴があります。
このようなケースでは、資産や収入を細かく守ろうと防御的になるよりも、むしろこちらから「養育費」や「有利と思われる財産分与」を提示し、その代わりとして「事業内容には深入りさせない」「将来の増減請求権を放棄してもらう」といった、経営者にとって重要な「将来の事業の安定」を勝ち取る戦略が極めて有効な場合があります。
守るべきものの優先順位を明確にし、弁護士と戦略を練ることで、事業への影響を最小限に抑えた「早期の円満解決」が可能になります。
弁護士 時田 剛志




