本人の稼働能力を考慮し実収入のみをベースとした婚姻費用が認められた事例

事案の内容
依頼者は、60代後半の男性で、家族経営の会社の取締役を務めていましたが、モラハラと暴言を繰り返す60代前半主婦の妻との関係に悩んでいました。依頼者は重い持病のため近年体調を崩しており、会社への出勤もままならない状態になっていました。
入院もしましたが、根本的な治療はできず、週の半分を通院しなければならないほどの体調でした。
近年のコロナ禍の影響もあり、依頼者の体調や稼働能力からすれば、経営状況が思わしくなかった勤務先会社も、依頼者にこれまでどおり役員報酬を支払うことは困難であるとのことでしたので、依頼者も取締役の退任をせざるを得ない状態となりました。
これに対し、妻も条件さえ整えば離婚するということ自体は争わないとしつつ、離婚成立までの婚姻費用を請求してきました。取締役退任後の依頼者は、年金暮らしの状態でしたが、「夫には当該会社で働き続けるだけの稼働能力はあるのだから、これまで受領していた役員報酬の額を収入として婚姻費用を算定すべき」として、婚姻費用の金額を巡る紛争となりました。

事案の経過(交渉・調停・訴訟など)
私たちは、依頼者や依頼者の勤務していた会社に依頼し、いかに会社の経営成績・財政状況が厳しい状況にあるのか、客観的資料に基づく丁寧な主張を行っていきました。また、依頼者の健康状況が芳しくなく、依頼者が会社へどのような貢献ができるのか・できないのか、詳細に説明を行っていきました。
また、高齢であり、一般的な統計によっても稼働能力はなく、再就職の見込みもないことを主張しました。
妻はこの依頼者の主張を争ったため、調停は不成立となり、「審判」という裁判所に判断を委ねる手続に移行しました。

本事例の結末
裁判所は、私たちの証拠に基づく主張を容れ、依頼者が実際に受給することができている年金のみを収入の基礎とする婚姻費用の算定を行い、依頼者の主張が認められるに至りました。

本事例に学ぶこと
会社員であれば、基準とすべき収入の額の認定が問題になることは多くありませんが、自営業者であったり、家族経営企業の役員であったりする場合には、収入金額を操作することが容易であるとして基準とすべき収入に争いが生じるケースがあります。
このような場合には、婚姻費用を支払う義務者の収入の主張をするだけでなく、稼働能力も含めそれを根拠付ける事実・証拠を提出することで、説得力ある証明をする必要があります。
婚姻費用や養育費といった算定表という裁判所の基準が示されている事件であっても、一概に決められない問題を包摂した事案はございます。
そのようなケースにおいてはどのように主張を裏付ける事実を積み重ねていくか、弁護士に相談されることを強くお薦めいたします。

弁護士相川一ゑ
弁護士平栗丈嗣