「共同親権」、すでに離婚している場合はどうなるのか?弁護士が詳しく解説
「共同親権」、すでに離婚している場合はどうなるのか?弁護士が詳しく解説

令和6年(2024年)5月に成立した「共同親権」を導入する改正民法。

これに伴い、すでに離婚されている方にとって、「私たちの場合はどうなるのか?」、「勝手に共同親権に変えられてしまうのか?」といったお悩みを持たれる方がいらっしゃるかと思います。

本コラムでは、弁護士の視点から、すでに離婚済みの方々にどのような影響があるのか、どのような手続きが必要になるのか、そしてDV(ドメスティック・バイオレンス)等の懸念がある場合はどうなるのかについて、弁護士が詳しく解説します。

「共同親権」の基本知識

「共同親権」の基本知識

現在、単独親権(父母のどちらか一方のみが親権を持つ状態)であっても、施行日以降は「共同親権」に変更することが可能になります。

もっとも、ここで誤解してはいけないのが、「法律が施行された瞬間に、自動的に全員が共同親権に切り替わるわけではない」という点です。

現状維持(単独親権のまま)を望むのであれば、何もしなければそのまま単独親権が継続します。

親権の形を変更したい場合のみ、新たなアクションが必要になるのです。

親権を「共同」に変更するための手続き

親権を「共同」に変更するための手続き

では、すでに離婚している元夫婦が、単独親権から共同親権へ変更するにはどうすればいいのかですが、大きく分けて2つのパターンがあります。

1 元夫婦間で話し合いがまとまる場合

この場合、元夫婦の話し合い(合意)のみで共同親権に変更できるかというと、答えは「NO」です。

親権者の変更は、子供の身分に関わる重大な事項であるため、必ず家庭裁判所の手続きを経る必要があります。

もっとも、双方が合意している場合は、裁判所もスムーズに審判を下してくれるかもしれません。

「親権者変更の申立て」を行い、裁判所が「子供の利益になる」と判断すれば、共同親権への変更が認められます。

2 話合いがまとまらない(片方が拒否している)場合

「元夫が共同親権を求めてきたが、私は絶対に応じたくない。」、「自分も子育てに関わりたいので共同親権にしたいが、元妻が無視する。」といったように、元夫婦間で意見が対立する場合、親権を持たない側の親(別居親など)は、家庭裁判所に対して「親権者変更の調停・審判」を申し立てることができます。

申し立てがあった場合、最終的には裁判官が「共同親権にすることが、その子の利益(幸せ)になるかどうか」を判断して決定します。

単独親権から共同親権へ変更が認められるための判断基準について

単独親権から共同親権へ変更が認められるための判断基準について

裁判所が、「単独親権のまま維持する」か「共同親権に変更するか」を決める際、何を考慮するかについてですが、改正法やこれまでの議論を踏まえると、以下の要素が重視されると考えられます。

  • 父母の関係性: 建設的な対話が可能か。
  • これまでの監護実績: 実際に誰がどう育ててきたか。
  • 子供の意思: 子供の年齢や発達度合いに応じ、子供自身がどう思っているか。
  • 暴力や虐待の有無: (最重要項目)

特に、今回の改正法議論で最も焦点となったのが「DVや虐待があるケース」です。

これについて、詳しく解説いたします。

法改正において、「DVや虐待のおそれがある場合」は、裁判所は必ず「単独親権」としなければならないという規定が設けられました。

つまり、共同親権への変更は認められません。

すでに離婚済みの方で、相手方から共同親権への変更を申し立てられたとしても、過去にDVがあった事実や、現在も恐怖を感じている事情、子供への虐待の恐れなどを裁判所に主張・立証した場合、共同親権への変更が認められない可能性があります。

DV保護命令が出ているような明確なケースだけでなく、精神的DVや、父母間の著しい対立により子供に悪影響が及ぶ場合も、単独親権が維持される可能性が高いと考えられます。

共同親権に変更された場合の「リアル」

共同親権に変更された場合の「リアル」

もし、過去の離婚ケースで共同親権に変更された場合、日々の生活はどう変わるのかについて解説いたします。

共同親権になったからといって、全てのことを二人で決めなければならないわけではありません。

食事の内容、習い事の送迎、軽い風邪での通院などは、同居親(子供と一緒に住んでいる親)が単独で決められます。

また、DVからの避難や、緊急手術などは、単独で行うことができます。

一方で、以下の事項は共同決定が必要になると考えられます。

  • 進学先の決定(公立か私立か、留学かなど)
  • 転居(特に遠方への引っ越し)
  • 長期的な医療(手術や長期入院を伴う治療方針など)
  • 宗教に関すること

など

養育費はどうなるのか?

養育費はどうなるのか?

親権の形がどうあれ、子供と離れて暮らしている親(または収入が多い側の親)が、子供の生活費(養育費)を分担する義務はなくなりません。

むしろ今回の改正では、養育費の支払いを確実にするために、「法定養育費制度(取り決めがなくても最低限の額を請求できる仕組み)」や「先取特権(支払いが滞った時に、給料などを差し押さえやすくする権利)」が強化されています。

共同親権への変更を検討する際は、改めて養育費の取り決めを公正証書などで明確にしておくことが、トラブル防止の鍵となります。

まとめ

まとめ

今回の法改正は、日本の家族法制における歴史的な大転換です。

もっとも、すでに離婚された方々にとって、共同親権は「新たな選択肢」であると同時に、「新たな火種」になる可能性も含んでいます。

「共同親権にすれば、もっと子供に会えるようになるかもしれない」、「共同親権にされたら、元夫に居場所を知られてしまうかもしれない」期待と不安、それぞれの事情があるかと思います。

最も大切なのは、「父母の権利争い」ではなく、「子供が安心して健やかに育つ環境はどちらか」という視点です。

法律の適用は個別の事情によって大きく異なります。

インターネットの情報だけで判断せず、施行前の今の段階から、一度専門家である弁護士に相談し、ご自身のケースでの見通しを立てておくことを強くお勧めします。

決して一人で悩まず、まずは弁護士にご相談ください。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 安田 伸一朗
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