婚姻時から保有していた特有財産と婚姻時に生じた財産が混じり合っていたにもかかわらず、特有財産部分の分与を免れた事例

事案の内容
依頼者は妻から離婚を切り出され、妻には弁護士が就いた状態で同居しながら離婚交渉を進めていました。もっとも、相手方に弁護士が就いた状況の下で財産分与等の条件を出されてもそれが妥当なのか分からず、また、もし裁判になった場合に自身の要望がどこまで通るのか分からず、弁護士に依頼するに至りました。

事案の経過(交渉・調停・訴訟など)
まず、依頼者が混乱していた離婚にあたっての論点を整理していきました。その上で、訴訟になった場合の見通しを説明し、解決が送れると延々と婚姻費用を支払わなければならないことを説明し、譲るべき点と強く主張を貫いていくべき点を整理しました。
相手方弁護士は、財産分与の点において、不動産価格をエンドユーザー向け販売価格として主張してきたため、財産分与の清算金額が非常に大きくなってしまっていました。そこで、現実にすぐに不動産会社が買い取ってくれる実際の金額査定をし、その金額をベースにした夫婦共有財産の清算をすることができました。
次に、依頼者は婚姻時に相当程度の預貯金を保有していましたが、婚姻後当該預貯金の出入りが大きくなっており、財産分与対象外たる特有財産と、夫婦が築いてきた共有財産とが混じり合ってしまっていました。このような場合、特有財産部分を財産分与対象外とすることが困難な場合があります。そこで、特有財産と、新たに取得した財産を、客観的に切り分け、特有財産部分の分与を回避するべく主張していきました。
そして、養育費の支払いについて、離婚することで手当が減少することによる基準となる収入をどう考えるのか、子どもが何歳になるまで養育費の支払いを続けるのか、大きな争いが生じました。そこで、裁判例や実務書を通じた考え方を論理的に主張し、できる限り依頼者に有利になるよう交渉をしていきました。

本事例の結末
財産分与については、現実的に換価可能な金額をベースに算定することで合意することができました。また、丁寧に客観的に特有財産部分の主張をする中で、依頼者が婚姻当時に保有していた預貯金を特有財産として、財産分与対象外として合意することができました。
養育費については、子どもの年齢や、夫婦間での子どもの将来についての在り方・考え方を整理することで、子どもが20歳になるまでを支払の終期とすることができました。

本事例に学ぶこと
依頼者は、相談の段階では多くのこと望んでおり(悪いことではありません)、全てを主張すると交渉での解決はうまくいかず、調停・訴訟での解決まで持ち越すことが想定されました。しかし、そのように時間をかけて解決をすることを図ると、多大な婚姻費用を払い続けることになり、結論としては、早期に離婚することが経済的には良かったということになってしまいます。そこで、経済面での要望が論点になる場合には、何を捨てて何を守るべきか、俯瞰して考えることが肝要です。本件は、初めの段階で様々なシミュレーションをした上で、作戦通りに早期解決をすることができた事案となりました。

弁護士 平栗丈嗣