【男性の離婚】「証拠が薄い特有財産」と「子名義の預金」。調停で不利な状況を覆し、支払額を数百万単位で減額した事例

紛争の内容(ご相談前の状況)

依頼者は、妻から離婚を切り出されたHさん(40代・男性)。離婚すること自体に異論はありませんでしたが、財産分与について、妻側から到底受け入れられない主張をされ、大変お困りでした。

Hさんには、2つの大きな懸念点がありました。

  1. 自宅不動産の購入資金 現在居住している自宅マンションの購入時、Hさんはご自身の親御さんから多額の資金贈与を受け、それを頭金の一部に充てていました。これは財産分与の対象外となる「特有財産」ですが、贈与から長年が経過しており、当時の通帳や贈与契約書といった明確な証拠が手元に残っていない状況でした。
  2. 子名義の多額の預金 妻は、お子さん名義の預金口座に多額の蓄えをしていました。しかし、その原資は夫婦の給与から貯めたお金でした。にもかかわらず、妻は「あくまで子どものためのお金であり、名義も子どもなのだから財産分与の対象ではない」と強く主張していました。

Hさんは、ご自身で交渉を試みましたが話はまとまらず、相手方が弁護士を立て、家庭裁判所に離婚調停を申し立ててきたため、専門家に対応を任せたいと当事務所にご依頼されました。

交渉・調停・訴訟等の経過(当事務所の対応)

調停の代理人となった弁護士は、Hさんの正当な権利を守るため、2つの争点に対し、粘り強くかつ戦略的な主張・立証活動を行いました。

  • 【特有財産の立証】― 不利な状況を覆す緻密な立証 さらに弁護士は、単に贈与額を差し引くだけでなく、「贈与された資金が、現在の不動産価値のうち、どれだけの割合(パーセンテージ)を占めるか」を算定。不動産価格が高騰していたため、単なる贈与額面をはるかに超える価値を特有財産として控除するべきだ、と法的に高度な主張を展開しました。
  • 証拠が乏しい中、弁護士は諦めませんでした。当時の不動産売買契約書や、ご両親の昔の通帳の取引履歴(金融機関に照会)、ご両親からの聞き取り内容などを丁寧に積み重ね、「Hさんの親からの贈与資金が、間違いなく不動産の購入原資の一部となっている」ことを証明しました。
  • 【子名義預金の反論】― 財産の実質を見抜く鋭い指摘 子名義の預金について、弁護士は「名義が誰か」ではなく「誰が、何のために、どのようにお金を貯めたか」という財産の実質こそが重要であると主張。預金の入金履歴を丹念に追い、その原資が夫婦の給与であることや、管理を妻が行っていた実態を具体的に明らかにしました。そして、「これは夫婦が協力して築いた共有財産に他ならない」と、調停委員を介して相手方を強く説得しました。

本事例の結末(結果)

弁護士による専門的な主張・立証が功を奏し、調停はHさんにとって極めて有利な内容で成立しました。

  1. 不動産については、親からの贈与額面ではなく、現在の不動産価格に引き直した高額な価値がHさんの「特有財産」として認められ、分与対象から控除されました。
  2. 子名義の預金についても、当方の主張が全面的に認められ、その全額が夫婦の「共有財産」として財産分与の対象となりました。

これらの成果により、もし相手方の当初の主張どおりに財産分与が行われた場合と比較して、Hさんが妻へ支払う金額を、数百万単位で免れる(減額する)ことに成功しました。

本事例に学ぶこと(弁護士からのアドバイス)

離婚時の財産分与は、時に非常に複雑な法律論争となります。特に、以下の2点は覚えておいてください。

  • 「特有財産」は証拠が命: 親からの贈与など、夫婦の一方が単独で得た財産は「特有財産」として分与の対象外ですが、それを証明する責任は主張する側にあります。「時間が経ったから」「証拠がないから」と諦める前に、どのような資料から立証の可能性があるか、専門家にご相談ください。
  • 「預金の名義」に惑わされない: 財産分与では、形式的な名義人よりも「その財産が、夫婦の協力によって得られたものか」という実質が重視されます。子名義や、どちらか一方の名義になっている預金でも、共有財産と認められるケースは多数あります。

相手方が感情的になっていたり、法的に誤った主張をしていたりする場合、当事者同士での話し合いは困難を極めます。不利な条件を提示されてお困りの際は、ぜひ一度、離婚問題に精通した弁護士にご相談ください。

弁護士 時田 剛志