離婚を頑なに拒む配偶者との協議において、依頼者の意向を踏まえてお子様のための手厚い条件を受け入れる方針を採り、慰謝料請求を取り下げさせたうえで公正証書による協議離婚を成立させた事例

紛争の内容

ご相談にいらしたのは、離婚を望んでおられる男性の依頼者でした。もっとも、その立場は決して有利なものではありませんでした。婚姻関係が破綻するに至った経緯において、依頼者の側に責められるべき事情があり、いわゆる有責配偶者に当たる可能性が否定できなかったのです。

有責配偶者からの離婚請求は、法律上、極めて高いハードルが課されています。裁判所は、自ら婚姻関係を壊した側が離婚を求めることを原則として認めず、認められるとしても、長期の別居や未成熟子がいないことなど、厳しい要件を満たす必要があります。本件では未成年のお子様がいらっしゃり、裁判での離婚成立を見込むことは、現実的とはいえない状況でした。

そして相手方である配偶者は、離婚に頑なに応じない姿勢を示しておられました。感情面での対立も深く、当事者同士の話し合いでは、およそ前に進む見込みがありませんでした。

さらに事情を複雑にしていたのは、お子様に継続的な支援や医療を要する事情があったことです。単に離婚するかどうかという問題ではなく、離婚後もお子様の生活と将来をどう支えていくのかという、重い課題が横たわっていました。

こうしたなかで、依頼者のお気持ちははっきりしていました。とにかく離婚を実現したい。条件については、相場を踏まえたうえであれば、相手方に有利な内容であっても構わない。そういうご意向でした。

交渉・調停・訴訟等の経過

当職がまず依頼者と共有したのは、本件における現実的な見通しでした。有責配偶者としての立場、未成年のお子様の存在、そして相手方の強固な拒否姿勢。これらを踏まえれば、裁判所の手続で離婚を勝ち取るという道筋は、およそ描きにくい状況でした。

そうであれば、進むべき道は1つです。相手方に離婚へ応じてもよいと考えていただけるだけの条件を、こちらから積極的に整えていくこと。当職は、依頼者のご意向を確認したうえで、この方針で交渉に臨むことといたしました。

もっとも、ここで重要なのは、単に譲歩すればよいというものではないということです。相場からかけ離れた条件を安易に受け入れれば、依頼者が離婚後の生活を維持できなくなり、結局は約束が守られず、新たな紛争を生むことになりかねません。当職は、養育費をはじめとする各項目について実務上の相場を踏まえ、依頼者が現実に履行できる範囲を見極めながら、そのうえで相手方に有利といえる水準の条件を組み立てていきました。

具体的には、養育費について相場を踏まえた額を長期にわたって支払うこととしたうえ、通常の養育費とは別に、教育や進学に伴って将来生じ得る費用についても、幅広く分担することを取り決めました。とりわけ手厚くしたのが、支援を要するお子様に関する部分です。医療や療育に関して必要となる費用を漏らさず取り決めたほか、そのお子様が就労や自立の困難な状況にある場合には、成人後においても生活の支えについて真摯に協議に応じることを、依頼者において約束しました。財産に関する取り決めについても、依頼者は大きく譲る形を選んでいます。

これほどの条件を積み上げていく一方で、当職は、相手方から主張されていた慰謝料の請求については、取り下げていただくよう粘り強く交渉しました。ここが、本件における1つの分岐点でした。お子様のために継続的な支払いを重く引き受けている以上、そのうえにさらに一時金としての慰謝料を上乗せすれば、依頼者の履行能力を超えてしまい、かえって約束が絵に描いた餅になりかねません。当職は、この点を丁寧に説明し、依頼者が引き受ける負担の総体を示すことで、相手方にご納得いただきました。

そして、こうして積み上げた合意内容を、公正証書という形にまとめました。強制執行認諾の文言を付した公正証書とすることで、相手方にとっては、約束が守られなかった場合に直ちに強制執行ができるという安心が得られます。この点も、相手方が離婚に応じる判断を後押しする要素となりました。

本事例の結末

こうして、頑なに離婚を拒んでおられた相手方との間で、離婚給付等に関する公正証書が作成され、協議離婚が成立しました。

依頼者にとって最優先の目的であった離婚は、実現しました。有責配偶者に当たり得る立場で、裁判では見通しの立たなかった状況から、協議による離婚へとたどり着けたのです。相手方の主張していた慰謝料も、取り下げていただくことができました。

そして何より、この解決は、お子様の将来にとっても意味のあるものでした。継続的な支援も、教育に伴う費用の分担も、将来の扶養についての協議義務も、すべて公正証書という確実な形で残されました。離婚という区切りをつけながら、親としての責任は明確に引き受ける。そうした形での着地となったのです。

本事例に学ぶこと

まず知っておいていただきたいのは、有責配偶者からの離婚請求には高い壁があるということです。婚姻関係の破綻について責められるべき事情がある側が離婚を求める場合、裁判所はこれを容易には認めません。未成熟のお子様がいらっしゃる場合には、なおさらです。裁判をすれば離婚できると考えて手続を始めても、長い時間と費用を費やしたあげく、望む結果が得られない可能性があります。

だからこそ、協議による解決の道を丁寧に探ることに意味があります。相手方が離婚に応じない以上、応じたいと思っていただける条件を整えることが、現実的な突破口になり得ます。本件で当職が採った方針は、まさにそれでした。

もっとも、譲歩には設計が必要です。何をどこまで譲るのか、そしてその代わりに何を確保するのか。本件では、お子様のための継続的な負担を手厚く引き受ける一方で、一時金としての慰謝料は取り下げていただきました。感情に流されて場当たり的に譲るのではなく、依頼者が現実に履行できる範囲を見極めながら、相手方にとっての価値が高い部分に資源を集中させる。この設計こそが、代理人の腕の見せどころといえます。

そして、合意の形も重要です。強制執行認諾文言付きの公正証書とすることで、相手方には確実性という安心が生まれ、それが合意そのものを後押しします。口約束や私的な書面では、後々の紛争の火種を残しかねません。

最後に、お子様に配慮が必要な事情がある場合には、将来生じ得る費用をできる限り具体的に取り決めておくことをお勧めします。抽象的に協議するとだけ定めるのではなく、想定される項目を挙げておくことで、後の争いを防ぐことができます。

離婚をめぐるお悩みは、ご自身の立場が有利とはいえない場合ほど、一人で抱え込みがちです。しかし、状況を正しく見極め、条件を丁寧に設計することで、道が開けることがあります。どうか一人で結論を出さず、まずはグリーンリーフ法律事務所にご相談ください。私たちは、依頼者が本当に望んでおられることを見据えながら、実現可能な解決を組み立ててまいります。

弁護士 時田 剛志