
令和8年(2026年)4月に施行された改正法により、離婚の手続が大幅に変更されました。新たな制度が創設されたのと同時に、実は民法から削除され、利用できなくなる法的構成もあります。今回は、民法改正によりなくなった規定・制度について、簡単に説明したいと思います。
離婚に関する法改正によって、削除された規定
民法改正による削除項目について

民法のうち、離婚に関する手続は共同親権制度の利用可能性が生まれ、また財産分与や婚姻費用、養育費についての手続の中に新たな制度が生まれるなど、広がりを見せている、という見方もできますが、その一方、民法の規定から削除されたものもあります。
夫婦間の契約の取消権 (民法754条)の削除

令和8年(2026年)4月に施行された改正民法以前の民法では、
(夫婦間の契約の取消権)
第七百五十四条 夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
という規定がありました。
これは、条文の文言のとおり、夫婦間の契約をいつでも取り消せる、というものなのですが、契約内容が既に履行されていた場合でも取消できるという点でも特徴がある規定でした。
このような規定があったのは、①婚姻中は、妻が夫に押し切られたり、夫が妻から歓心を買うためなど、自由意思に基づかないで夫婦間で契約が締結されやすいこと、②夫婦間の契約の履行は、当事者の心に委ねて、法的拘束力を認めて、裁判上その履行の強制をするということは、国家権力が家庭に立ち入ることになって望ましくない、と考えられていたことがあるようです。
しかし、今となってはどの理由も合理性を失っており、かえって本条による弊害が大きいと批判されていたのです。
実際、婚姻が実質的に破たんしている場合には、婚姻関係が形式的に継続していても、当該規定により契約を取り消すということができない、という最高裁判所の昭和42年2月2日の判例があり、この条文の適用について争われるような事例では、通常夫婦関係が破綻状態にある場合なので、実際の適用がない、という点で問題視されていました。
そこで、事実上、同条の存在意義はなくなっている、として条文自体が削除されました。
裁判上の離婚の一部事由(民法770条1項4号)の削除

その他にも、離婚の原因として民法770条1項で定められていた事由のうち、
「四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。」という規定が削除されました。
この4号の規定は、配偶者が精神病に罹患したことにより、夫婦としての共同関係を維持することができなくなった場合は婚姻が破綻したものといえ、他方配偶者になお婚姻の継続を強いることはできない、という当時の判断によるものであったようです。
これは、もともと「精神的な障害を有する者」に対する差別的な規定との批判があり、実際最高裁判所で争われた事例でも「精神病にかかったという一事をもって直ちに離婚原因になると解すべきではない」との判断がされていたものがあり、削除の方向に進みました。具体的には、国連の障害者権利委員会により、「民法770条1項4号が障害者に対する差別的な規定であるとして、これを削除すべきである」との勧告がされました。
また、法制審議会総会が平成8年2月に決定した民法の一部を改正する法律案要綱でも、現行の民法770条1項4号を削除することを含む改正案が提案されていました。
このような国際的な流れとは別に、最高裁判所の判例は、「民法は単に夫婦の一方が不治の精神病にかかった一事をもって直ちに離婚の訴訟を理由ありとするものと解すべきでな」いとした上で、「病者の今後の療養、生活等についてできるかぎりの具体的方途を講じ、ある程度において、前途に、その方途の見込のついた上でなければ、ただちに婚姻関係を廃絶することは不相当」であるとして、現行民法770条1項4号による離婚請求が認められる範囲を実質的に制限していました。
他方で、現行民法770条1項4号による離婚請求が認められないとしても、配偶者の精神病の状況のほか諸般の事情を考慮して、婚姻を継続し難い重大な事由があるとされることはありえます。結果として、同項5号による離婚請求が認められる可能性があるわけで、公刊されている裁判例からは「同項4号の適用のみによって離婚請求を認容するのではなく、配偶者の精神病の状況を同項5号に係る一事情として考慮し、婚姻を継続し難い重大な事由があるといえるかを判断する傾向がある」といわれていました。
国際的な人権についての考え方や、裁判実務の傾向を踏まえると、現行民法770条1項4号を存置し続けなくとも、同項5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」の有無を判断するに当たって、配偶者の精神病の状況などの諸般の事情を考慮することとするのが適当であるとも考えられるため、家族法の大改正がなされた令和8年4月1日施行の改正民法では、民法770条1項4号を削除しました。
規定の削除が社会に与える影響

これらの規定は、規定があったころも、既に最高裁判例によって、その適用が制限されていました。
したがってこの両規定を削除しても、社会的な影響は小さいと考えられます。
なお、本件改正規定の施行日は、令和8年4月1日ですが、本件改正規定は、本件改正法の施行前に生じた事項にも適用されるとされています。
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この記事を書いた弁護士:弁護士 相川 一ゑ
離婚・不倫慰謝料
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
平成21年登録後、男性側・女性側問わず多数の離婚事件に対応。DVや保護命令に関する対応も行っており、地方自治体等公的機関での講演実績も有する。埼玉弁護士会内でも両性の平等委員会で委員長・副委員長を歴任してきた。




