
親権争いにおいては、感情的な主張だけでは望む結果を得ることはできません。
裁判所が何を基準に親権者を決めているのか、そのルールを正しく理解し、戦略的に準備を進めることが不可欠です。親権を獲得するための実務上のポイントを解説します。
親権争いの大原則は「子の利益(福祉)」

日本の裁判所が親権者を指定する際、唯一にして最大の基準とするのが「子の利益(子の福祉)」です。 簡単に言えば、「父と母、どちらが育てるのが子供の幸せにとってプラスか」という視点です。
よくある誤解として、「相手が不倫をしたから親権は取れないはずだ」というものがあります。しかし、不貞行為(不倫)は夫婦間の信義に反する行為ではありますが、必ずしも「親としての適格性」を否定する理由にはなりません。 「有責配偶者であること」と「親権者としての適格性」は、裁判所では切り離して考えられるのが実情です。
裁判所が重視する「5つの判断基準」

親権を争う際、家庭裁判所(および調査官)は主に以下の5つのポイントを総合的に判断します。
① 監護の継続性(もっとも重要)
現在の子供の生活環境を安定させることを優先する考え方です。「これまで主に誰が子供の面倒を見てきたか」「現在、誰と一緒に暮らしているか」が極めて重視されます。 特別な事情がない限り、現在の監護状況を維持することが子供にとってストレスが少ないと判断されるため、「別居時に子供を連れて出ているか、あるいは残っているか」は決定的な要因になり得ます。
② 監護能力と生活環境
経済力、健康状態、住環境、そして何より「育児に割ける時間」があるかどうかが問われます。
- 仕事と育児の両立ができるか
- 実家の両親(祖父母)などのサポート(監護補助者)が得られるか
- 子供が転校せずに済むか
③ 主たる監護者は誰だったか(実績)
これまでの育児実績です。具体的には以下の事柄を誰が主導していたかが見られます。
- 食事の用意、入浴、寝かしつけ
- 保育園・学校の送迎や行事への参加
- 予防接種や通院の管理
④ 子の意思
子供がある程度の年齢(実務上は10歳前後から、15歳以上は必須)に達している場合、子供自身の意向が尊重されます。ただし、低年齢の子供の場合、親の顔色を伺って発言することもあるため、家庭裁判所調査官が慎重に真意を調査します。
⑤ 兄弟姉妹不分離の原則
兄弟姉妹は離れ離れにせず、同じ親が育てるべきという考え方です。特別な事情がない限り、兄弟で親権を分けることは稀です。
親権を有利に進めるための「具体的戦略」

弁護士の視点から、親権を獲得するために今すぐ始めるべき準備をアドバイスします。
「育児実績」を可視化する
口頭で「私が育ててきました」と言っても、相手が反論すれば水掛け論になります。客観的な証拠が必要です。
育児日記や連絡帳
日々の食事、体調、成長の記録。
カレンダーや手帳
学校行事、通院、習い事の送迎記録。
写真・動画
子供と一緒に過ごしている日常の風景。
監護補助者の確保
フルタイムで働いている場合、「仕事で不在の時に誰が助けてくれるのか」を明確にする必要があります。 自身の両親(祖父母)が健在で、協力が得られる場合は、その旨を陳述書にまとめたり、場合によっては祖父母自身の意向を確認したりしておくことが有効です。
「奪取の禁止」を守る
「先に連れて行った方が有利」という側面は否定できませんが、強引に子供を連れ去る行為は「不法な連れ去り」とみなされ、かえって親権争いで不利に働くリスクがあります。別居の際は、可能な限り弁護士に相談し、適切な手順を踏むべきです。
親権争いの「隠れた鍵」

面会交流への姿勢親権を争う際、多くの方が「相手には子供を会わせたくない」という感情を抱きます。しかし、法的な戦略としては、その姿勢が「親権を失うリスク」になり得ることを知っておかなければなりません。
① 「寛容性の原則(フレンドリー・ペアレント・ルール)」
近年の裁判実務では、「自分に親権が認められた際、非親権者(相手方)と子供の交流をより寛容に認めるのはどちらか」という点が判断材料の一つとなっています。これを「寛容性の原則」と呼びます。
裁判所は、子供の健全な成長のためには、離婚後も両方の親から愛情を受けることが望ましいと考えています。そのため、「自分が親権者になったら、相手と子供の会う機会をしっかり確保します」と協力的な姿勢を見せる親の方が、親権者として適格だと判断されやすい傾向にあるのです。
② 面会交流を拒否するとどうなるか?
「相手に会わせたくない」と頑なに拒否し続けると、裁判所から「親の葛藤に子供を巻き込んでいる」「相手を排除しようとする姿勢が子供の利益に反する」とネガティブに評価される恐れがあります。もちろん、DVや虐待などの明確なリスクがある場合は別ですが、単に「嫌いだから」「養育費を払わないから」といった理由で拒否することは、親権獲得において不利に働く可能性が高いと言わざるを得ません。
面会交流の具体的な決め方

面会交流の内容を曖昧にすると、離婚後のトラブルの種になります。
面会交流で決めるべき主な項目項目内容の例頻度月1回、隔週、あるいは長期休暇中(夏休みなど)の宿泊時間1回あたり3時間〜半日、宿泊を伴う場合は1泊2日など連絡方法直接のLINE、メール、または弁護士や支援団体を介した連絡受け渡しの場所公共施設、駅、または自宅前など学校行事への参加運動会や参観日への出席を認めるか、通知はどうするか第三者機関の利用「相手と直接会うのはどうしても精神的に辛い」「子供を連れ去られるのが怖い」という場合には、面会交流支援団体(FPICなど)の利用を検討しましょう。付き添いや場所の提供、連絡の仲介を依頼することで、安全かつ円滑な交流が可能になります。このような公的・準公的な手段を提案する姿勢も、「子の利益」を考えている証拠として裁判所に評価されます。
面会交流を「制限・停止」できるケース
「何があっても会わせなければならない」わけではありません。以下のような「子供の福祉に悪影響を及ぼす事情」がある場合には、面会交流の制限や停止を主張できます。
DV・虐待の事実
子供や監護親に対して暴力や暴言がある場合。連れ去りの危険性: 過去に強引な連れ去りがあった、またはその具体的な恐れがある場合。
子供の強い拒絶
子供が十分な判断能力を持つ年齢(10歳〜15歳以上)で、真意から拒否している場合。
不適切な言動
面会中に「お母さん(お父さん)は悪い人だ」と吹き込む、勝手に転校の話をするといった行為。
弁護士が教える「戦略的」な向き合い方

親権を獲得したいのであれば、面会交流を「奪い合いの道具」にするのではなく、「親としての心の広さを示す機会」と捉え直すことが重要です。
「条件付き」での同意
全面的に拒否するのではなく、「子供の体調を優先する」「第三者機関を介する」といった合理的な条件を提示する。
試行的面会交流の活用
裁判所内での試験的な面会に応じ、そこで子供が楽しそうにしている姿を調査官に見せる(=自分が子供の情操教育に配慮できている証明になる)。
養育費との切り離し
「養育費を払わないなら会わせない」は法的に通りません。逆に「会わせないなら払わない」も通りません。両者を切り離して誠実に協議に臨む姿勢が、結果として親権獲得を引き寄せます。
結びに
子供にとっての「最善」を共に探す親権の問題は、法的な理屈だけでは割り切れない感情のぶつかり合いです。しかし、最終的に裁判所が下す判断は、常に「子供の笑顔が続くのはどちらの道か」という一点に集約されます。面会交流を適切に実施することは、子供から片方の親を奪わないという「親の責任」でもあります。私たちが弁護士としてサポートするのは、単なる勝利ではなく、「離婚後も子供が安心して育っていける環境作り」です。親権争いの中で、面会交流をどう進めるべきか迷われているなら、ぜひ一度ご相談ください。状況に応じた最適なシミュレーションを共に行いましょう。
父親が親権を取るためのハードルと対策

かつては「母親優先」の傾向が非常に強かったですが、近年は共働き世帯の増加により、父親が親権を獲得するケースも増えています。 ただし、それでも依然として父親側のハードルが高いのは事実です。父親が親権を目指すなら、以下の点を徹底する必要があります。
「育休取得」や「時短勤務」の実績
単に「これから頑張る」ではなく、既に育児のために生活スタイルを変えていることを示す。
相手方の監護不適格性の証明
相手が育児放棄(ネグレクト)をしている、虐待があるといった客観的な事実がある場合、それを証拠化します。
監護補助者の強力なバックアップ
実家のサポート体制を母親側以上に強固に構築する。
家庭裁判所調査官の調査への対応

親権争いが審判や裁判に発展すると、家庭裁判所調査官による調査が行われます。 調査官は心理学や社会学の専門家であり、家庭訪問や学校への聞き取りを行い、報告書を作成します。裁判官はこの報告書を非常に重視するため、調査官への対応が合否を分けると言っても過言ではありません。
誠実な対応
相手への罵詈雑言は避け、あくまで「子供のために何が最善か」という一貫した姿勢を見せる。
子供との関係性
調査官の前で子供と接する際、自然な愛情表現ができているかが見られます。
まとめ:親権は「愛情の量」ではなく「環境の継続」

「私はこれだけ子供を愛しているのに」という訴えは、相手も同じように持っています。裁判所が判断するのは愛情の深さではなく、「どちらの親と一緒にいることが、明日からの子供の笑顔を守れるか」という現実的な環境です。
親権争いは精神的に非常にタフなプロセスです。しかし、戦略を誤らなければ、道は必ず開けます。もし今、相手から「親権は渡さない」と言われて絶望しているなら、まずは専門家である弁護士にご相談ください。あなたのこれまでの育児実績を正しく法廷で伝え、子供との未来を守るお手伝いをいたします。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。





